パニック時のコミュニケーション
「地震、雷、火事、親父」広辞苑によると「日常、人々の恐れるものをその順に列挙したもの」。地震の次に火事のレポートがあった以上、それより怖い「雷」の話をしないといけません。
8月12日夜、関東地方に雷と大雨が襲来し多くの事故と被害がありました。筆者が仕事帰りに利用した武蔵野線の電車は東川口駅でストップ。少し様子を見ると言うアナウンスから、架線落雷、信号機故障など適切な情報が車内放送で刻々伝えられています。
ところが、電車の最後部にいた私は、車掌室に一歩足を踏み入れて車掌に文句を言っている中年男性を目にします。指先を相手の顔の前で振りながらかなりの剣幕で怒鳴っています。最初はまじめに聞いていた車掌の顔もだんだん険しくなってきます。何が癪に障ったのか、どんな話がなされているのかは聞こえませんが、多少酔っているようにも見えるお客の相手をする車掌さん、ガンバレ!サービス業って大変ですね。
10分ほどして車掌も多少強行に男性の身体を押し出し、ドアを閉めて業務放送に掛かります。多少声が震えています。「復旧の見込みが立たず、埼玉高速鉄道に振替輸送をします」。またもや彼の男性が車掌室に向かいます。いいかげんにしろ!っと言いに行きたくなる衝動を押さえ、自分自身のサバイバルに専念することにします。
さてしかし、埼玉高速鉄道がどこを走っているのか、自分の家に行くためにはどんな利便があるのかが分かりません。普段からの緊急時対策ができていなかったことを悔やみます。改札を出ながら、多分明日は早出のために寝ているであろう息子を起こして車で迎えに来るように頼みます。
では、時間があれば読みたいと持ち歩いている本を読むことに決め込みます。自動券売機のそばで待つこと1時間、駅のアナウンスは「上下線とも運休、復旧の見込みは立っていません」と何度も伝えています。しかし自分としては不思議に思える、人々の行動を目にします。多くの人が切符を買います。そして改札に向かい、10分ほどしてから精算をしてそそくさと戻ってくるのです。
それならと思いボランティアよろしく切符を買おうとしている若い女性に「切符を買っても、電車は止まっていて復旧の見込みはないそうですよ」と忠告しました。驚きました。顔もみたくない人に話し掛けられたかのように顔をそむけ、切符を買い、改札に向かうのです。決してイケメンではありませんが、講師として身なりには気をつけている私なのですが・・・。
その後どうされたのかは、想像こそすれ見届けるつもりはありません。
その晩、武蔵野線は深夜まで復旧しなかったということですが。
車掌さんの的確な情報伝達にも食って掛かる男性、駅の再三のアナウンスにも耳を傾けないで行動する人々、そして人の親切な忠告を嫌がる若い女性。
コミュニケーションを阻む共通の要素、「壁」があるようです。
あるコミュニケーションの専門家が若者に「自分にとって恐ろしいものは」という調査をしたところ、「地震、雷などの天災、昆虫、死」などの群を抜いて第一位はなんだったでしょうか? それは「人と話すこと」だったそうで・・・。
IT企業の若き戦士達の研修を担当している身にとって、「雷」によって起きた出来事は、奇麗事のコミュニケーション・スキルだけでは済まされない「壁」を目の当たりに見せて貰い、今後の研修活動に役立たせていただきたいと思います。
「地震、雷、火事、親父」。「雷」の次は「親父」ですね。次回をお楽しみに!
(TY)
2005.08.14
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