火事とリーダーシップ
今回は火事の話です。ホテルに宿泊しているとき突然に、火災報知機が鳴ったら、あなたはどうしますか。このときに私たちが無意識に取る行動は、リーダーシップと大きな関係があるようです。
先日、関東で大きな地震がありました。そのとき私はあるビルの地下2階で打合せをしていたのですが、大きな揺れに一瞬、全員が息を呑みました。最初の揺れがおさまると、口々に言葉が出てきたのですが、少し経ってからある人が、「ドアを開けておこう」と言ったことで、その場にいたメンバーは我に返ったという感じでした。
その部屋の扉は金属製でとてもがっしりしたものだったので、地震の程度によっては、ドアが開かなくなり閉じこめられていたかも知れないのです。それを思うと、自分たちが慌ててしまい、とっさに適切な行動ができなかったことを情けなく思ったりもしました。
このことがあって、以前に見たテレビ番組のことを思い出しましたので、それをご紹介しようと思います。それは、地震ではなく、火事の話でしたが、なんとリーダーシップに関わることだというのです。
数年前、事故は韓国のソウルで起こりました。何かの原因で地下鉄の車両が燃え出し、火がついたまま、駅に入ってきたそうです。そのときちょうど反対側の車線では車両がホームに停車しており、ドアが開いていました。
そこへ燃えている電車が反対側の車線に入ってきたものですから、停車していた電車にも、煙がもうもうと立ちこめたそうです。その停車中の車両には数名の乗客が乗っていたのですが(すいていたので座っていたそうです。)、彼らは立ち込める煙に包まれながら、どうしたと思いますか。
なんと、誰一人として席を立つ人はなく、全員が座ったままだったということです。幸いにも、死傷者はでなかったそうですが、ちょっと信じ難い話ですね。
この話を番組で紹介されたのは、大学の先生だったと記憶していますが、その先生が行った実験で興味深い結果が出たというのです。それは、ある大きな旅館に被験者を各部屋に分けて滞在させ、あるとき突然に火災報知機を鳴らすというものです。
部屋は、在室者1名の部屋、2名の部屋、3名の部屋、と段階的に最大6名の部屋までそれぞれ複数の部屋をセットして、あるとき突然に火災報知機を鳴らしたそうです。その結果、どのような反応が見られたと思いますか。実は、1名部屋の場合には、約半数が廊下に飛び出してきたといいます。
ところが、6名部屋の場合には、1部屋も廊下には出てこなかったそうです。この実験から、部屋の人数が多いほど廊下に出てくる確率は低いというのが分かりました。
実験を行った先生は、この結果にはリーダーシップが関係しているというのです。つまり、多くの人がいる部屋では、誰かが廊下に出ようと言い出さない限り、そのままじっとしているというのです。
人には他人と同じ行動をとることで安心感を感じるという特性があるのだそうです。つまり自分はどのように行動しようか迷ったときに、他人がどのような行動を取るかを観察し、それに合わせてしまうということです。
「他の人が皆じっとしているから、私もじっとしていて大丈夫なんだ。」と無意識に自分に言い聞かせているのかもしれません。そのような中で、他人とは違う行動、すなわち「危ないかもしれないから外へ出よう」ということを誰かが言うか、あるいはその人が真っ先に外へ出て行けば、他の人もそれにつられて外へ出て行くということが起こり得るというのです。
先生は、この行動がリーダーシップであると言っておられました。ソウルの地下鉄でも、乗客の中の誰かが、「火事だ!」と大声を出して逃げ出して行けば、他の乗客もわれ先にと逃げ出したに違いありません。
リーダーシップとは一般に、「他者の行動に影響を与える力」と定義づけされますが、確かに、前述の非常事態で自ら逃げ出したり、声を出したりすることは、他人の行動に大きな影響を与えます。
これがリーダーシップであるとするならば、リーダーシップとはいつも「他の人とは異なる行動を取ること」であり、「他の人の考えに左右されずに独自の考えで自発的に行動すること」といった側面を持つことになります。これらは、企業の管理者に求められるリーダーシップのあり方、という点についても重要な示唆を与えるものではないでしょうか。
もっとも、その人自身が周囲の人から信頼されているなど、認められた存在であることが前提となりますが・・・。
(SY)
2005.08.03
>>Reserchの一覧へ