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君はなぜ、やらないのか(1)「心が邪魔をする」
 人間には、やるべきであることが分かっているにもかかわらず、それをやらないときがある。「この仕事は今日中に終わらせるべきだと分かっているが、つい翌日に持ち越す」というのも、その一つ。このように、やるべきと分かっているのにやらない部下を見ると、ときに上司は癇癪玉を落とし「君はなぜ、やらないのか?」と叱ることになる。仕事の生産性や効率を落とすからだ。そこで指導や教育となる。

 人間は、頭でわかっていても、心がそれを拒否してしまう場合がある。つまり、やるべきだと分かっているのにやらないのは、心が適切な判断の邪魔をする「心の問題」といえそうだ。また、心が冷静な判断にブレーキをかけるようなことだけでなく、「もっとがんばろう」というように心が行動のアクセルとなることもある。心とは不可思議なものだ。しかし、心が私たちの行動や成果に大きな影響を与えているのは間違いない。

 心とは何だろうか。

 それを考えようとするとき、心には形が無く、それがいったい何であるかという議論がプラトンの時代から現代まで哲学の分野における重要テーマであり続けているほど、つかみにくいものだ。つまり人間は、いまだに「心とは何か」という問題に、明確な答えを見つけきれていない。
 
 だからといって、心の問題を無視することはできない。なぜなら、心の正体を把握できずとも、心の問題の存在を否定する人はいないからである。心の問題は、心の病にもつながり、「人間が存在する」という前提(実は、この証明もなかなか難しいものらしい)を置けば、心の問題は確実に存在する。

 企業の人材教育は、対象者の行動を改善・向上させることが目的だ。それには、主に技能(スキル)教育と意識(マインド)教育がある。
 前者が、実行意欲を持つ者に対して実行するための技能・技術・思考力などを獲得させるための教育であるのに対し、後者は、必要な行動や考えを持たない者に対してその実行意欲を持たせようとする教育といえる。したがって、教育を受ける側の態度は、前者の場合には前向きであり、後者では後ろ向きであることが多い。だから、後者の教育は難しい。性善説にも限界がある。
 
 「君はなぜ、やらないのか?」という心の問題に対する教育は後者である。
“動機づけ”というのも、上司が部下に対して行う後者の教育の一つの形だが、そもそも心とは何なのだろうかを理解せずして、部下のやる気を高める指導や、社員を成長させる教育はできないだろう。ここに、指導や研修といった教育行動が効果をあげない原因がありそうだ。

 次回は、“心とは何か”を少し生物学的な視点から、見ることにしたい。心のしくみが少し分かれば、教育の効果をより高められるかもしれない。

【吉田】
2011.11.10

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