東京マラソン体験記~沿道の応援から得るもの~
スタートラインから一番遠いKブロックからのスタートだった。
「みなさ~ん、スタートラインは遠く向こうですよ~、あせらずに行きましょう」と係りの人がメガホンマイクを通した大きな声が聞こえてくる。
たくさんの人込みの中、しばらく待っていると遠くで大きな花火が鳴った。
おそらくスタートしたのだろう。ドヨメキこそあったが、歩いて進む程度だ。
ようやくスタートラインに着いたのは、花火が聞こえてから17分40秒後だった。
石原都知事がずっと手を振ってくれている。
こう見ると、“良い知事だなぁ”と思う。
はたして次の都知事はこのように手を振るだろうか。とさえ、感じた。
さぁ、スタートラインを過ぎると、ウォーキングからジョギングに変わり始めた。
最初は、新宿東口の方へ進んでいく。西武新宿駅近くの高架下。
車ではさっと通り過ぎるところも、走ってみると少しの坂でも気になるものだ。
歌舞伎町を過ぎていく。都心を走るとは気持ちいいものだ。
2Kmを過ぎたところの沿道の声援
「ラスト40Km!!!」
どっと笑いがおきる。
楽しみながら走りたいと思いつつも、やっぱり苦しかったりする。
このように少し面白い声援は、気分を楽にしてくれる。
そう思っていると、「まだ先は長いぞ~、がんばれ~」と聞こえてくる。
沿道の応援には助けられるが、なんだか先が長いだとか言われると
少し窮屈な気分になる。
ビジネス上で上司から声かけられる要素に似ている気がする。
やっぱり分かっているよってことを改めて言われると窮屈な気分になる。
防衛庁を過ぎ、5Kmが過ぎた。
時間は1時間に迫ろうとしていたが、キロ7分のペースで行こうと決めていた僕にとって、おおよそ5キロを35分くらいで進んでいると思うと、作戦通りだった。
思っていた通りにコトが進む時ほど、気持ちいいことはない。
よく計画が大事だと言うが、途中で計画通りに行っていることが分かると楽しくなるものだ。
はじめての給水ポイント。
特に汗をかきやすい僕は必ず給水をとる。アミノバリューを飲んだ後、水が置いてあった。なんと小さなペットボトルだ。
僕はペットボトルを手に取ったが、さすがに飲みきれない。半分以上残し、捨てた。
非常にもったいないが、運営サイドでは、ペットボトルを持って走れという意味なのだろう。走っている方としては、何かを持って走るのは、少し走りにくい。
“こうしてほしい”という善意は、ニーズに応じていないとアリガタ迷惑になることを改めて実感される。
さて、皇居を過ぎ、日比谷に来た。
沿道には人が多くなってきた。また沿道で行われているイベントも横目で見ていても面白い。小さな子供が踊っている横で、おばさんが踊っていた。
嬉しいのだが、そのギャップが面白い。
「楽しませる」というのは、やっているコトだけではなく、その状態や状況が楽しいというのもあるんだなぁとも。
ただ、踊っているおばさん達が生き生きしている姿を見るのが、また嬉しい。
三田を過ぎ、品川の15Kmの折り返しを迎える。
ハーフマラソンの15Kmはもうヘトヘトの状況だけど、今はなんとなく大丈夫。依然としてキロ7分のペースを保っている。
沿道には応援してくれている人々が、まだ元気なので、手を出してくれている人とは、ハイタッチをしながら走っていく。
顔も名前も知らない人だけど、手を出して応援してくれている。
僕は「ありがとうございます」といいながら、ハイタッチをしていく。
なんだか完走するための勇気をもらっているようだ。
その人が僕に声援を送っているのかといったらそうでもない。
ただ、僕はその人のおかげで勇気をもらえる。
人の意図に関わらず、自分にとって必要なことであれば、
感謝する気持ちが大事であること。改めて感じる。
田町を過ぎ、有楽町・銀座へ向けて走っていく。
銀座から日本橋にかけて、たくさんの人が沿道にいる。
顔を見ているのも気持ち悪くなりそうだが、
たくさんの声が聞こえてきて楽しい。
日本橋にさしかかったところで、大きな声援があった。
何かと横を見たら、山田親太郎や小島よしおが歩いていた。
おぉ、僕も芸能人を抜かせるようになったか。
と少し嬉しい気持ちになった。
まだ走る元気がある僕は、すぐに抜かしていった。
浅草までいく間に20Km地点を過ぎる。
20Kmまでキロ7分のペースをほぼ守りきって走れた。
これは僕にとって計画通りにいったという成功体験の一つとなった。
このペースでいければいいけれど、
そううまくいかないこともよくわかっているつもりだ。
「少し早いけど」と思いながら、給水所の前でPowerbarを口に含んで、
給水で一気に流し込む。
その後に給水所で手にしたバナナとパンを頬張りながら、浅草・雷門を目指す。
疲れた時のための早めの準備が必要だ。
何事も先が分かるならば早めの準備は有効的だ。
浅草近辺にやってくると食べ物を差し出してくれている沿道の人が多くなってきた。食べたい気持ちはあるが、取るために止まる勇気がない。
止まってしまうと今のペースが崩れそうだ。
自分のペースを守ることが大切なコトを教えてくれる。
ペースは相手に合わせることではなく、自分のきつくないペースを守る。
ビジネスでは時として、それが自分よがりで悪いことのように思えるが、
自分の能力が一番発揮できるペースが仕事も効率的に進むのではないだろうか。
浅草を過ぎて、30Kmを迎えようとしているところから、さすがにきつくなってきた。
ただ、日本橋・銀座へ帰ってきて、この沿道の中で歩くわけにいかない。
銀座の大勢の人の前を通り過ぎる。
「歩かないで頑張れ~」
僕の前を歩いている人へ声がかかったのだろうか。
歩きたくて歩いているわけではないだろう。
ただ、見ている人からすると、どんなに遅くとも歩かないで走った方が応援し甲斐があるのだろう。
“僕は絶対に歩かないぞ”と心に決めた。
周りの目を気にすることは好きではないが、どうしても僕らは周りに影響を受けてしまうものだ。
銀座を過ぎて、水天宮へとやってくると、沿道は少し落ち着いてきた。
ただ、35Kmを過ぎて、僕の疲れもピークになってきている。
なかなかスピードがでない。
歩くようなスピードで走っているところに大きな橋が見えてきた。
「ここを登るのか・・・」と思いながら、大きく腕を振り、橋を登る。
試練というのは、キツイときにやってくる。
頑張っているときにやってくる。
乗り越えられない試練はやってこないって言葉を聞いたことがあるなぁっと思いながら、歩いている人を横目に一歩ずつ歩くようなスピードで走る。
36キロに差し掛かったところ、沿道から「あと駒沢3周!」という声が聞こえてきた。周りの人は分からないだろうが、日頃から駒沢公園を走っている僕には響く言葉だ。
“そうだ、あと3周なんだ”と思いながら、もくもくと走っていく。
日頃の練習が大事なコトがよくわかる。
40Kmを迎えたとき、時計は、5時間29分を指していた。
スタートの時のアドバンテージ17分を引くと、残り18分で2.2キロだ!目標としていた5時間30分を切れるのではないか!
そう思い、有明駅が見えそうなところから、必死に走った。
僕にとっては、スゴク飛ばしているように感じていた。
次々と歩いている人を抜かしていく。
もう時計を見ずに必死に走った。
ゴールが見えてきた。
時計は、5時間47分を指していた・・・
“あ・・間に合わな・・・・・”
そして、大きく手を広げてゴールをした。
やっぱり目標タイムには1分13秒届かず、公式タイムは、5時間31分13秒だった。
目標には届かなかったが、自己ベスト更新と歩かずに走った自分になんとなく満足をしていた。
自分ひとりで走っていたら、とっくに歩いていただろう。
時に面白く時に厳しい沿道の声援。
周りにいる人がどんな声をかけてくれるのか。
その声を自分がどのように受け止めるのか。
自然と周りに感謝する気持ちで、
完走メダルを首にかけてもらっていた。
【今村】
2011.03.10
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