サービス セミナー 研究サロン 事例集 企業情報
『新人早期戦略化』第2回
新入社員の育成に限らず、育成という観点から、まず重要なのは、ゴール(目的・目標)の設定である。単なる知識の確認や資格の取得といったものですむ場合は簡単であるが、近年のビジネス環境の変化によって、「正しいことが存在し、後から来る(入社する)ものは、その『正しいこと』をいち早くできるようになればよい」というスキームが通用しなくなった。(ここに近年の「早期戦力化」が難しくなっている原因の一つがある。)

ここで、新入社員研修のスタンスは大きく2つに分かれてくる。すなわち、「現場で必要な最低限の知識だけを身につけさせ、あとは現場に任せる」と「最低限の知識と環境変化に耐えうるだけのスキルを身につけさせ、現場へも刺激を与えられる人材を育成する」である。

前者は現場の負担は大きくなるが、現場にそれなりの育成体制がとれる余力があるならシンプルで分かりやすい。後者はゴールとしては理想的に見えるが、育成期間自体に時間とコストがかかり、また、「これからの理想的な働きかた」を追求するあまり現場の仕事ぶりと乖離が生じるリスクもある。(「ソリューション営業への転換」を掲げて、新人だけを教育したが、結局、「現場の営業と違う」と言われてしまう例などが散見される。)

いずれにしても、配属後の現場で「使える」ことがまず第一に重要であるから、受け入れ先の現状やそれに基づいた合意がなされていなければ、理想的なゴール設定などあり得ない。ただし、ここに来て、受け入れ先の現状を考慮して「基本的に現場の指導力をあてにしない」ゴール設定が見られるようになってきたことは特筆に値する。これらの企業群でのゴール設定は以下のようなものである。
  • 仕事が与えられたときには、その仕事に求められる品質・納期・次の仕事での使われかた・使えるリソースといった基本情報が欠けている場合は、自分から確認することができる。
  • その仕事を始めるにあたっては、実行計画を立てると同時に、見積もり時間を想定し、後から振り返りができるようにできる。
  • 上記の実行計画を上司や先輩に確認し、できる限り効率の良いやり方に関する情報収集を行える。
  • 実行時に想定外のことが起こった場合や1日・1週間の終わりなどのタイミングで報告・相談を欠かさず行える。
  • 仕事(特に新しいもの)が完了したら、振り返りをして、計画との誤差や想定外の出来事を確認し、次回に向けての知見を整理できる。
あなたの部下である新入社員研修担当責任者が「要するにPDCAと報・連・相ですよね」と気づいたら、なかなかスジがよい。ただ、さらに単なる「PDCAと報・連・相」ではない、と言う点にまで言及できるかが問題である。

本来PDCAと報・連・相」というのは『学習項目』に過ぎないのである。それをゴール設定し、現場に配属されたときに「達成されているかどうか」を確認できるようにしておくためには、上記のような“○○の状況で△△ができる”という定義が不可欠なのである。

知識の面でも、実は同様のことが言える。ほとんどの仕事は、その実務をこなすために基礎となる商品知識・業務知識・関連法案知識などを必要とする。

ただ、それらの知識は、「覚えていて、かつ、応用(例えば、他人に説明)できる」ことが求められるものもあれば、「資格取得のためにだけ必要」なものもあれば、「必要になったときに調べる手段を持っている」ことで足りるものもある。当然、求められるレベルよって、実際の研修内容は全く異なるわけであるから、教育の投資効果を考えるという観点からも、ゴール設定がいかに重要かがご理解いただけるであろう。

さらに、近年の「自分はいずれ独立・転職する/したい、が6割を超える」(どの調査結果を引用しているかは前回のリンクから確認して欲しい)という現実を考慮すると、自社へのロイヤリティーの醸成やメンタルタフネスの面も育成の目的のうちに含まれている必要性が増していると言える。これらについても、「学習項目としてカバーしている」だけでは不十分であることは言うまでもない。

(例えば、「各事業部の今後の方針」を事業部トップから話されたとして、自社へのロイヤリティーは充分に醸成されるだろうか? ・・・もちろん、すべてのプレゼンテーションがすばらしければ別だが。)

以上の点に留意しながら、新入社員研修計画の概要をチェックしてみよう、目的・目標が不明確であったり、現実的でないなら、情報収集や合意・納得を得るプロセスを再度指示することも必要かもしれない。

さて、研修のゴールが定まったら、いよいよカリキュラム作りである。
(以前は、この順番が逆で、まず昨年のカリキュラムありきで、「今年はどこを変えましょうか?」というアプローチもあったが、近年はさすがに改善されているようである。)

まず、当然のことながら、それぞれのプログラムの内容は目的・目標に即しているはずである。これは、以下の2点をチェックすればよい。
  • それぞれのプログラムは、「この目標に対応している」と明確に定義できる。
  • 上記を全部確認した後、逆に「この目標に対応するプログラムがない」ということがなく、すべてカバーできている。
上記が確認できていれば、「後でどんな役に立つか分からない」研修(例えば、毎年開催されているから、新入社員の受けがいいから、という理由だけで実施しているものなど)は一掃される。また、講師サイドに、「この目標だから、研修修了後にはこの状態になっていてほしい」と明確にそのゴールも伝えることができる。以上をしっかりやることで、新入社員に対しての教育投資効果は大きく向上するはずだ。

ところで、時折、現場サイドから「この研修はやっておいて欲しい」という要望がある場合がある。これが、目標とリンクしないのであれば、現場との調整(なぜ必要かを確認するなど)をし、必要であれば、目標のほうを修正する必要があるかもしれない。

目的・目標について、それを踏まえた育成内容については以上が原則である。ここで、「モレがない」ことは重要であるが、「ダブリがない」ことがあまり強調され過ぎてはいけない。なぜなら、特に新入社員研修は「できること」が求められているのであり、「研修で習った」という事実だけで配属されてしまっては、現場が迷惑なだけであるからである。

特に、新入社員は(当たり前だが、一部の例外を除いて)社会人としての経験はない。くり返し、学習・トレーニングを積み重ねないと、「できる」ようにならないものも多いのである。一番怖いのは「知っているつもり・できているつもり」なのだ。ただし、学校教育に慣らされている新入社員は、一方で「習ったはずのことを何度もやる」ことを極度に嫌がるのも事実である。これについては、次回の「育成方法・学ばせ方」のところでその工夫のしどころについて言及したい。

>>Reserchの一覧へ