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『新任管理者の育成』第1回
企業にとって管理者の力は業績全体に影響を与えます。貴社においても、その期待を一身に受けた新任管理者がいらっしゃるでしょう。そして、その方々の育成は会社にとって重要なテーマです。本編は、人事担当者の皆様方に、新任管理者の育成策のヒントとしてご利用いただきたいものです。

【ウチのメンバーにはロクなのがいない!】


鞍馬圭介がA課の新任課長となって3ヶ月が過ぎた。職場では、最初は遠慮していた部下もだんだんと打ち解けてきたのか、言いたいことをいうようになってきた。

「おはよう。」

そろそろ梅雨に入りかけているある日、鞍馬はいつものように出勤し、先に出勤していた今出川に声をかけると、あいさつが返ってきた。

「おはようございまーす。」

食い入るような目で大衆週刊誌の記事を読んでいた今出川は、鞍馬の方へ目をやることも無く、とってつけたような挨拶を返した。
鞍馬はちょっと、ムッとしたが、何も言わなかった。

『どうも、この課のメンバーは質が悪い。普通は上司が入ってきたら、せめて顔を向けて挨拶すべきだろう。そんなこともできないのか。』

とニガ虫をつぶした表情を見せながら、黙って席に座った。

『この課の部屋はいつも雑然としている。メンバーにはロクな奴がいない。』といつものように思いながら、仕事の準備を始めた。

2課の前任課長からはウチのメンバーは優秀だ、と聞かされていたのに、であった。ふと、目を上げると、前に今出川が立っていた。

「課長。この前の京都商事からのクレームですけど、アレどうしましょうか。」

そんなこと、一人で処理できないのか、という気持ちを押さえて鞍馬は、言葉を返した。

「どうしましょうかって、この前、君に処理を頼むっていったじゃないか。」

すると今出川は不服そうに、「頼むって言われましても…。あの件は確かに私が相手からの電話を受けましたけど、私が担当だって言うんですか。そんなこと聞いていませんよ。」

この今出川の言葉に、鞍馬はカチンときた。

「担当がどうのこうのということじゃない。私はこの処理を君に頼むと言ったんだ。」

こうなれば今出川も黙っていない。

「お言葉ですが、こういうこともあるので、キチンと担当を分けて欲しいと、このまえにお願いしたじゃないですか。私の担当だと、ちゃんと決めていただければやりますよ。」

「何を言うんだ。何もいちいち担当として決めなければ仕事ができないっていうのかい。臨時的に君にやって欲しいと言ったんだよ。仕事の担当分けとか、進め方なんかはそう簡単に変えられるものじゃないよ。」

仕事の分担や進め方は、これまでのやり方をしっかり守っていくことが課長の役割である、と鞍馬は信念を持っていた。決められたルールがあれば、何がなんでもそれを決められた通りに進めていく。そうでなければ、皆が勝手なことを言い出し、課全体の業務がうまく運ばなくなると、考えていた。

今出川は、鞍馬の言葉に、『もうこれ以上言ってもしょうがない。』と感じ、『分かりました。何とかします。』と言って立ち去ろうかと思ったが、その前にひとこといっておこうと思った。

「分かりました。何とかします。でも、課長が来られて最初のミーティングの時にお話したことですが、今のやり方では、いろいろと問題が起こって、みんな困っているんです。そこを何とかしてくれるのが課長じゃないんですか。」

今出川は、少し言い過ぎたかな、と思ったが、『もう、課長とは話もしたくない。』そう思って、自分を慰めるしかなかった。

今出川が去った後、鞍馬は思っていた。『まったく、ウチのメンバーにはロクなのがいない。特に今出川には、今後厳しくしなければならないな。』

【課長の役割とは・・・】


鞍馬課長の職場は、今後険悪な雰囲気になりそうです。これでは、課の仕事がうまく進んでいかなくなるかもしれません。鞍馬の考え方は間違っているのでしょうか。それとも今出川の考えが悪いのでしょうか。

いったい課長など管理者といわれる存在には、どんな意味があるのでしょうか。また、その管理者に課せられている役割とは、何なのでしょうか。考えなければならないテーマがたくさんありそうです。
これらについて、どう考えていけば良いのでしょうか。

【管理者の役割?3つのキーワード】


管理者の役割を考えるときに、3つのキーワードが重要になります。

まず第一に「Object(目標)」です。管理者の役割は会社の目標がブレークダウンされたものだということです。

第二に「Resource(経営資源)」です。経営資源を最も効果的に活用することが必要です。そのため、仕事のプロセスやルールも必要とあれば状況に合わせていくことが必要です。鞍馬課長はもっと現状をよく確認しておく必要があるようです。また、ヒトも経営資源。使い方ひとつで、戦力にも邪魔にもなります。

第三に「Human(ヒト)」です。管理者にとってヒトという経営資源がもっとも重要です。それを最大限に活用するには、部下がその力を最も発揮できる環境をつくること、部下の状況や心情にも配慮した動機付け、が必要であり、これらが管理者の役割となります。鞍馬課長はこの部分への対応が不十分なようです。

以上の3点が「管理者の役割とは…」を考える原点となるでしょう。次回には、もう少し具体的に捉えていきたいと思います。


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