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第25回(2007年12月19日)「新任マネージャー教育」報告
 本年最後の人材開発研究会は、多くの方々の参加をいただき、以下のテーマについて、盛会のうちに終了いたしました。以下、その内容をかいつまんでご紹介いたします。

         『名選手、名監督にあらず!』
      「優秀な社員は、結果を出す管理者になれない?」

 『名選手、名監督にあらず!』とは、プロ野球の世界でよく言われることですが、私たち、ビジネスの世界でも同じようなことが見られます。すなわち、「人一倍高い成果をあげていた優秀な人材だったのに、管理者としてチームの結果を出せない」という、その反対に、「一般職のときはあまりパッとしなかったが、管理者になってからは、チームの高い成果をあげている。」ということもあるようです。

 経営者あるいは幹部は、一般社員の中で優秀な人材(これをここでは「プロフェッショナル」と名づけます。)がいれば、昇格、昇進させて、結果を出す管理者(これをここでは、「エクセレント・リーダー」と名づけます。)になって欲しい、なってくれるのではないか、と期待を寄せます。しかし、前述のように、その期待が裏切られたり、あるいは、あまり期待していなかったが、それ以上の結果を出してくれたりと、なかなか管理者育成は難しいものと思えてきます。

 しかし、こういった現象が起こることは、ある意味で当然のことといえそうです。その意味とは、「プロフェッショナルとエクセレント・リーダーとでは、必要となる能力(スキルや態度)が異なる」からです。まさにこれは当然のことです。

 ただし、プロフェッショナルは、たとえ現時点でエクセレント・リーダーとしての能力を持ち合わせていなかったとしても、その個人が持っている能力ポテンシャル(潜在能力)は、高いものであるはずですので、それを活用しない手はありません。したがって、名選手(プロフェッショナル)を、名監督(エクセレント・リーダー)にするためには、プロフェッショナル時代に何を身に付けておけばいいかが課題となります。

 そこで人材開発研究会では、参加者の皆さんが実際の現場で感じ取っておられる「プロフェッショナルとエクセレント・リーダーの違い」について討議を進めました。具体的な違いについて、多くの意見が出されましたが、まとめてみると以下の3点にまとめられるようです。

 
 第一には、「視野」の違いです。プロフェッショナルが自分、個人、担当ミッション(業務)、短期的業績、を主な視野(仕事の範囲)とするのに対して、エクセレント・リーダーは、組織、集団、組織ミッション(組織活動)、中長期的業績をも含めて視野(仕事の範囲)」としているということです。

 第二には、「思考」の深さです。仕事の成果は担当者の行動に支配され、担当者の行動はその思考に支配される、というメカニズムがありますが、エクセレント・リーダーの思考は、プロフェッショナルのそれよりも、より深いレベルが要求されるということです。それは、プロフェッショナルが思考の不十分さを自身の行動でカバーできることが多いのに対して、エクセレント・リーダーは組織活動であるため。思考不足によって発生した問題やリスクを回避するため、その思考には、十分な緻密さと周到さが必要となります。

 第三は、「信念」です。それも、「緻密で周到な思考に裏付けられた信念」というべきものであり、単なる思い込みではないことが重要です。エクセレント・リーダーの思考や役割行動は、この信念を基点として、4つの志向に分化されます。

1.オブジェクト志向…明確な目的認識
2.オルタナティブ志向…(自意見は常に多くの意見の一つであり)可能性を追求する
3.チーム志向…集団のためにあきらめない
4.エビデンス志向…根拠ある結論を考え抜く

 プロフェッショナルは、自己の優秀さのあまりに多くの仕事を抱え、毎日の業務に追われているのが現状でしょう。企業としては、この状態を容認・放置するのではなく、プロフェッショナル時代から「視野」「思考」「信念」という3点について考えさせ、リーダー(管理者)となる前に、理解させておくことが望まれます。

 そのための機会として、経営目標や理想のリーダー像などについて、プロフェッショナル本人と、経営者、人事部門、上司が共有する場が必要であるといえます。この場として、「共同経営会議(CMC:コレクティブ・マネジメント・カンファレンス)」などのアイデアがあります。


 最後に、「リーダー人材生産工場」のような管理者育成のしくみを整えることが必要であると述べたいと思います。ただし、どのような場を持つか、どのような制度をつくるか、どのような育成活動を行うかは、企業の状況によって異なると思われますが、自社において、管理者育成のために、現在どのような目的で、どのような活動がなされているのかを再確認する必要はあるはずです。必要な要素を欠いていたり、習慣的に形骸化した制度や活動が行われていたりしないか見直したいものです。

                       (株)HRD研究所 吉田繁夫

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