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第24回(2007年10月17日)「EAP(従業員支援プログラム)の現状と動向」報告
 最近、厚生労働省は心の健康問題で休業していた労働者の職場復帰支援に関する手引書を発表するなど法制化の動き、精神障害での労災認定や訴訟件数の爆発的増加などから、従業員のメンタルヘルスをめぐる問題については、単に福利厚生と捉えるだけではなく、企業の人事戦略の一環として捉えなおす動きが見られています。
 
 今回の研究会では精神保健福祉士・日本EAP協会の小沼三智子さんにお越しいただき、米国におけるEAP最近事情などをお聞きしながら、これからのEAPについての考察を深めました。
 ご参加いただいた方々のなかには、すでにEAPを導入している企業の方もおられ、講演後に参加者の活発な議論がなされたことは、どの企業でも従業員の心のケアが重要と考えられており、大変関心の高いことが明らかになりました。

 まず、「カウンセリング」という言葉の認識あわせからスタートしました。辞書にはカウンセリングとは、「専門的な手続きに基づく相談」(大辞林より)だそうです。
 しかしながらアメリカでのカウンセリングは多岐にわたっています。
・家族の問題・離婚の問題・養子縁組の問題・訴訟問題・アルコール依存症の問題・薬物依存症の問題・・・・という具合に色々なカウンセリングの専門分野に分かれています。

 日本では大きく分けて3つ。・メンタルヘルスのためのカウンセリング・キャリアアップのためのカウンセリング・復職支援のためのカウンセリングです。この3つも独立しているわけではなく、それぞれ重なる部分もあります。カウンセラーの資格を持っていても自分の専門でないカウンセリングを行うことも多いとのことです。

 つまり、日本ではカウンセリングを全て一色単に捉え、また、メンタルヘルスのカウンセリングが全てと考えている人が多く、「カウンセリングを受けた=心の病気?」と偏見の目で見られる、あるいは、「カウンセリングを受ける=自分は心の病気」と自分自身を逆に追い詰めてしまう危険性もあります。
 アメリカではカウンセリングを受けることが日常化し、一般化しているのに比べ日本では、かなりの非日常のことでアメリカのEAPを導入してもうまく活用されていないのが現実です。

 EAPのシステムでは前述した3つのカウンセリングのうちの、メンタルヘルスのためのカウンセリングと復職支援のためのカウンセリングの2つに注目しています。
 また、EAPではカウンセリングだけを行うことではなく
1.企業に対してのコンサルティングを行い
2.従業員へのトレーニング(研修等)を行い
3.対象者にカウンセリングを行い
4.休職者に対しての復職支援を行い
5.電話による相談をする。

という段階があり、導入するにあたりその企業にあったシステムを行えるようになっています。しかしながら、日本のEAPベンダーはパッケージ売りのようにシステムを売り、それをどう機能させるか、従業員への働きかけの部分がおろそかになっているのも現状であり、課題ともなっています。

 自殺者の数は全体で3万人以上、その中で労働者の自殺者の数は8000から9000人で推移しています。メンタルな病気(うつ病)を理由による自殺者の数も年々増加しています。 全国の交通事故の死者が6000から7000人で毎年減少していることと比べても大きな社会問題となっています。この自殺者を救えなかったのはなぜか?
本人の問題? 家族の問題? 仕事・会社の問題? この社会の問題?
原因は多岐にわたっていて特定するのは難しいといえます。

 ここで大切なことは、原因・犯人探しをするのではなく、健全な精神を持てる環境があり、個々の従業員がいるからこそ、企業は成り立ち、経営ができるのではないかという視点ではないでしょうか。 すでにEAPを人事戦略の一環で捉えることも経営サイドでは必要で大きな課題となっているのが現状です。
 
 企業ごとのそれぞれのEAPを活性化し、少しでも暗い話題が少なくなることを願っています。
 当社も人材開発を生業としており、これまではどちらかというと健全な精神をお持ちの方への研修を前提としておりましたが、もうひとつ手前の「健全な精神を作る」ことが人材開発の一環であるということも、たいへん大きな視点であることを再認識し、この社会問題を解決できる「なにか」を考えていきたいと思っております。(K.S)

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